(33)よーォ おめーが先に打てよ |
番組名:取材メモ・写真に見る日本のゴルフ史 |
更新日(2021/07/02)

1961(昭和36)年の春のこと。ベルギーの第4代国王レオポルド三世陛下が来日された時の話である。ゴルフ愛好家の陛下が、当時飛ぶ鳥を落とさんばかりの勢いだった中村寅吉に挑戦するという貴重なドラマがあった。
中村はその四年前、カナダカップで日本の初優勝に貢献したスーパースターだった。マスターズトーナメントにも出場するなど、世界のゴルフ界から注目される存在だった。レオポルド三世は、フィリップ第7代現国王の祖父に当たる方だ。ベルギーはヨーロッパの中では小さな国だが、英国をしのぐほどのゴルフ愛好国で1888(明治21)年にはロイヤルアントワープゴルフという倶楽部が創設され、1910(明治43)年にはベルギーオープンゴルフ選手権が始まっている。
そんなベルギーだから、王族のゴルフの腕前も確か。来日前から『日本でカナダカップ優勝経験のある中村にぜひ挑戦したい』という夢を持っていたそうだ。
この挑戦は3月の早春に実現した。場所は千葉県の鷹之台カンツリー倶楽部。陛下は、倶楽部役員との記念撮影を終えると1番のティーに向かわれた。迎え撃つ中村は早朝から練習ボールを打ち準備万端。一足早く1番のティーで陛下をお迎えした。そして『よーォ。アマチュアのおめーが先に打てよ』と声をかけた。すると陛下は日本語が分かろうはずもなく、ご機嫌麗しく、会釈して第一打を放った。このやり取りを見ていた外務省や大使館の職員はハラハラ、ドキドキ。
陛下は念願かなって世界の王者とのプレーを楽しまれ、コースを後にされた。中村は『俺はアマチュアに敬意を表したまでよ』といつもの寅さんスマイルで無事大役を果たした。
《写真・プレー中のベルギー第4代国王のショットと見守る中村(右))
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