自然の風が技術を運んでくれる 番組名:ゴルフ温故知新

更新日(2012/07/19)

《多摩川のゴルフ練習場の物語》

  いまから60年前の昭和27年、多摩川の東京都寄りの河川敷に東京多摩川ゴルフ練習場(東京都大田区田園調布南7−4。TEL:03−3758−5628。東急多摩川線・沼部駅下車徒歩5分)という打ち放し、38打席のドライビングレンジが店開きをした。練習場を切り盛りするのは田中誠さん(72)だ。田中さんは昭和35年の法政大学を卒業した同大学法友会ゴルフ部のOBである。

 学生時代には関東学生選手権、昭和34年には関東アマ、卒業後は日本アマ(昭和35年)に優勝、世界アマチュアチーム選手権の日本代表として中部銀次郎さんらとアメリカに遠征するなど、日本のアマチュアゴルフの頂点を極めている。

 田中さんは大学卒業後、家業がこのゴルフ練習場だったことからプロに転向して、家業を継いだ。田中さんが大学に入った昭和30年代の初頭における関東における大学ゴルフの勢力分布は、一に慶應、二に早稲田、関西は甲南、関学という流れだった。そんな矢先、関東学生選手権の予選競技で法政大学の新人、田中誠さんが好スコアを出して脚光を浴びた。度のきつい眼鏡をかけた新人は、腕っぷしが強く、アメリカ製の重いクラブを難なく振り回した。

「ひ弱さ」が代名詞だったその時代の学生ゴルフ界に強烈なアッパーカットを打ち込んだような存在になった。田中さんの出現はひ弱い学生ゴルフのイメージを一変させた。そのわけは、高校時代から常に強い風の吹く多摩川河川敷でボールを打ってきたから。そこで覚えた技術は、向かい風に負けない打ち方、追い風に球を乗せて距離をかせぐる打ち方だった。常に自然の中でボールを打っている環境を実戦に結びつけたのだ。

 『親がここの練習場をやっていたことに感謝しています。何故ならゴルフは自然の中でやるスポーツですから、ここで練習をやることは耳から入る風の音、肌に感じる寒さ、暑さは実戦に結びつきます』という。

 いわれてみると松山英樹君(東北福祉大)がマスターズに出る前、ここの練習場の門を叩いた。昨年、日本アマに優勝した桜井勝之君(明治大)もここに足を運んだ。多摩川といえばプロ野球の読売巨人軍の練習場が有名だった。あの長島茂雄さんがチャンスに三振を食らうと、大向こうからヤジが飛んだ。『ナガシマ!多摩川で練習してこい!』 多摩川の風は表現できないある技術を運んでれるようだ。 

《写真・自然の風の大切さを語る田中さん》